夕暮と山 [Haiku] – J.L. ボルヘス

夕暮れと山
何か言いしも
露と消え

 アルゼンチンの作家・詩人、ボルヘスの詩の一つに、「十七句」(というタイトルの詩)があります。このタイトルのとおり、この詩では17句の俳句が詠まれています。厳密に言えば、5・7・5風に読める(発声できる)短い詩、といったところでしょうか。なぜならば季語が含まれていないものもあるからです。

 ここでは試みとして、この17句を和風に読み解き、俳句風に訳してみたいと思います。といっても、17文字で構成される俳句に込められた思惑を完璧に受け取ることは、そもそも容易ではありません。いわんや日本語以外の言葉においてをや。しかし、それが俳句の醍醐味とも思えます。誰かが、ある状況で、その句を詠む。三者三様かもしれない。その懐の深さに、このたびも甘えることとします。


Algo me han dicho
la tarde y la montaña.
Ya lo he perdido.

– Jorge Luis Borges

 この句は、この詩の最初の句で、「1」と附番されています。

 直訳をすると、このような感じでしょうか。

 夕暮れと山が、かつて私に何か言った。しかし、もうすっかり忘れてしまった。

 ここで「夕暮れ」とした「tarde」は、「午後」と言ってもいいのですが、「すっかり忘れてしまった」という抒情的な感覚から、はつらつとした午後よりは、もう少し夜に近く終息感のある夕暮れを選んでみました。

 かつて、夕暮れという時の流れのひとときが表する宇宙の摂理、大きな山のような、自分たちと異なる時間軸を持つ偉大なる自然が、何かを切々と説いてくれていた。しかし、もはや思い出すこともできず、もう一度説いてもらう時間もない。

 少し切ないですが、まあよしとしましょう。

その他の「十七句」:
原文 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

Original haiku by Jorge Luis Borges (1982). La cifra. Alianza
Photo by Anderson Martins

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